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古戦場めぐり

暑いね。

その日も東京の最高気温は34度あたりだったと思うのだが、10時ころに朝・昼兼帯の食事をとったあと散歩にでかけた。ふだんであればそのまま昼寝してしまうけれど、なにしろ4ヵ月も自宅に引きこもっていたから、身体を動かさないとダメだよなぁ、というとても消極的な発想で家をでた。

その時点では行き先など決めていなくて、まぁ自宅近辺をふらつくか、と思っていたのだが、なにしろ暑いからただふらつくだけでは面白くないと思い、都営三田線に乗った。神保町に着いたとき、これも考えなしに電車を降りた。神保町はわたしが中学生のときまで暮らしていた街なのでいわば故郷である。だからこの駅で降りたのは帰巣本能のようなものなのかもしれないが、ここには頻繁にきているのであらためて行くべき場所があるわけでもなく、あてもなく歩いていた。

そのうちにふと「古戦場めぐりでもしてみるか」そう思った。ここでいう「古戦場」というのは歴史的旧跡のことではない。

わたしが仕事でいちばんつらかったころを過ごしたところへ行ってみよう、というわけである。地名でいうと大手町と赤坂。大手町は担当していた企業がある場所、赤坂のほうはその当時の勤務地である。そこでの5年間はとにかくつらく、若かったからしのげたが今だったら完全にノック・アウトだろう。なにしろ地下鉄の赤坂駅で事務所に戻るのが嫌でホームのイスに1、2時間ほど座り込んでいたほどであった。それも2回や3回ではない。心拍数があがり呼吸が浅くなって苦しみながらの逃避行なのだった。

ということで古戦場ツアーが始まった。

神保町から大手町はどうということのない距離である。皇居前にでて堀の水面をながめながら歩いているうちに気象庁が見え、ほどなく古戦場のひとつに至った。やはり感無量である。記憶の底に沈殿していた顧客とのさまざまなやり取りのいくつかが浮かびあがってくる。その企業は世界中に拠点がある大企業なので、記憶に登場するひとたちは遠い異国にいるのだろうな、わたしは老いて何も変わっていないのに。

しばし過去を彷徨したあと、ふたたび現実のみちを歩きはじめる。

大手町から日比谷公園をぬけて虎の門方面に進路をとった。外国からの旅行者がおおい。かれらから見たら汗まみれになってただ歩いているだけの東洋人はどう写るのだろう。

その日のわたしの服装はショートパンツにボタンダウンシャツ、そして素足にデッキシューズだからおかしくはない。まぁ、だれも気にもしていないことはあきらかだ。

工事中の虎の門病院のわきをとおり溜池へでた。

このあたりまでくると、ほふく前進を必死にやっていた若き自分が見えてくる。交差点をわたりしばらくして斜め左に曲がる。すこし進むと政治家たちが会合に使うであろうひっそりとした料亭がそこかしこにある。そういえばこの近辺のクリニックに勤務中に来て点滴を受けたことがあったな。あれはなぜだったか、忘れてしまった。まぁ、ここは戦場でわたしは兵士だったのだから点滴ぐらいするよな。

そうこうするうちに、かつてのオフィスのまえに来た。いまはべつの企業がはいっているが建物はそのままである。地下鉄赤坂駅から直結するこのビルも経年のためかなんだかみすぼらしくみえる。あんたも歳をとったんだねぇ、かつての戦場跡に声をかける。当時ここのオフィスには日本を代表する超大手企業や中央省庁を担当する営業の精鋭たちが集まっていたのだ。まぁ、ちょっといやな表現になってしまうが、わたしの勤めている会社の花形集団だったわけである。その部門で仕事をするということは、あの当時全国の営業マンの最高の名誉だった。だからこそ重圧もおおきく、つらかったのだが、しかしながらそのおかげでごくわずかの人間にしか体験できない世界を生きることができたのだった。

なにごとにたいしてもこらえ性のないわたしは、そんなあこがれの職場に5年でネをあげた。

この営業部隊のトップに、わたしが元いた部隊 -並の営業マンがいるふつうの都内の営業所に戻してほしい、そう直訴したのだった。なりふり構わないたびかさなる懇願、哀願のおかげで数か月後に異動の辞令がでた。異動先はわたしの想像もしていなかった熊谷という地の、しかも営業マネジャーだったのである。

とうじの住まいからの距離だと熊谷に単身赴任という選択肢もあったが妻が反対した。

あんたが独り暮らしなんかしたら100%オンナと同棲する。現地妻をつくること必定というわけである。なんとも鋭い観察で、きっとそうなっていただろう。そんな理由で新幹線通勤という、これもまた刺激的な形態となったのだった。



古戦場めぐり_f0200225_17464178.jpg



近くまできたので、ほんとうに尊敬する勝安房守さまにご挨拶して古戦場をあとにした。















by hidyh3 | 2017-07-10 17:47 | Comments(0)

年齢をかさねるに従って、あけてこなかった扉があまりに多いことに気づき、今ではそれらの扉をひたすら開くことが、わたしの生きることの証しです。               C'est la vie !!

by hidy
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